建設業界では、請求書の作成方法を間違えると入金遅延や税務トラブルの原因となります。
本記事では、建設業特有の請求書の書き方から必要な記載事項、元請・下請別のポイント、インボイス制度対応まで、税理士が実例を交えて詳しく解説します。
テンプレートや見本も提供し、適切な請求書作成で事業運営をスムーズに行う方法が分かります。
建設業で請求書が重要な理由と基礎知識
建設業において請求書は、単なる代金請求の書類ではなく、事業の継続性と信頼性を支える重要な経営ツールです。
適切な請求書の作成は、円滑な資金繰りと取引先との良好な関係維持に直結します。
建設業における請求書の特殊性
建設業の請求書は、他の業種と比較して以下の特徴があります。
工事の進捗に応じた出来高請求や、材料費・労務費・諸経費の詳細な内訳記載が求められることが多く、長期間にわたる工事案件では複数回の分割請求が発生します。
また、元請業者と下請業者の間での請求書のやり取りでは、建設業法に基づく適正な支払い条件の明記が必要となり、法的な要件を満たさない請求書は支払い遅延や契約トラブルの原因となる可能性があります。
資金繰りに与える影響
建設業では、工事の着手から完成・引渡しまで数か月から数年を要する場合があり、請求書の適切な発行タイミングと内容が資金繰りに大きく影響します。
特に中小の建設事業者にとって、請求書の発行遅れや記載ミスは深刻な資金ショートを招く恐れがあります。
請求書の問題 | 資金繰りへの影響 | 対策 |
---|---|---|
発行遅れ | 入金の遅延 | 工程管理と連動した請求スケジュールの策定 |
記載ミス | 支払い保留・差し戻し | チェックリストの活用と複数人での確認 |
必要書類の不備 | 承認プロセスの遅延 | 取引先の要求事項の事前確認 |
法的要件と建設業法の関係
建設業における請求書は、建設業法第24条の3に規定される書面の交付義務と密接に関連しています。
下請業者への支払いに関する請求書は、適正な支払い期日の設定と書面による通知が法的に求められています。
具体的には、下請代金の支払いは目的物の引渡しを受けた日から起算して60日以内に行わなければならず、請求書にはこの期限を明確に記載する必要があります。
また、支払い方法についても現金払いを原則とし、手形による支払いの場合は120日以内の期日設定が義務付けられています。
取引先との信頼関係構築
建設業界では、同じ取引先との長期的な関係が事業の安定性に大きく影響します。
明確で理解しやすい請求書の作成は、取引先との信頼関係を深め、継続的な受注機会の創出につながります。
特に、工事内容の詳細な記載、追加工事や変更工事の明確な区分、支払い条件の透明性は、取引先の経理担当者や現場責任者からの信頼を得る重要な要素となります。
また、請求書の体裁や記載内容が整っていることで、発注者側の承認プロセスもスムーズに進行し、結果的に早期の入金確保につながります。
電子化・デジタル化への対応
近年、建設業界においても請求書の電子化が進んでいます。
電子帳簿保存法の改正により、電子取引における請求書の保存方法にも新たな要件が設けられています。
電子請求書の導入により、発行コストの削減や処理スピードの向上が期待できる一方で、システムの導入費用や運用体制の整備が必要となります。
また、取引先との電子化レベルの違いにより、紙媒体と電子媒体の併用が必要な場合もあり、請求書管理の複雑化に注意が必要です。
建設業の請求書に必要な基本項目

建設業における請求書は、一般的な商取引とは異なる特殊な項目や記載方法が求められます。
適切な請求書作成により、資金繰りの改善や税務処理の円滑化が図れるため、必要な項目を正確に把握することが重要です。
記載が必須となる事項
建設業の請求書には、法的に記載が義務付けられている項目があります。
これらの項目を漏れなく記載することで、有効な請求書として機能します。
項目 | 記載内容 | 建設業特有の注意点 |
---|---|---|
請求書の表題 | 「請求書」または「請求明細書」 | 工事名を併記することが多い |
請求書番号 | 連番または管理番号 | 工事番号との紐付けが重要 |
発行日 | 請求書を作成した日付 | 出来高請求の場合は検収日との関係に注意 |
請求者情報 | 会社名、住所、電話番号、代表者名 | 建設業許可番号の記載が推奨される |
請求先情報 | 発注者の会社名、住所、担当者名 | 元請・下請の関係を明確化 |
工事内容 | 工事名、工事場所、工事期間 | 契約書との整合性を確認 |
請求金額 | 税抜金額、消費税額、合計金額 | 出来高に応じた按分計算が必要 |
支払期限 | 支払いを求める期日 | 建設業法の支払期限規定に準拠 |
建設業法では、元請業者は下請業者に対して工事完成後1ヶ月以内に代金を支払うことが義務付けられています。
この規定に基づき、適切な支払期限を設定する必要があります。
また、工事の性質上、長期間にわたる工事では出来高払いが採用されることが多く、その場合は検収日や出来高確認日も明記することが重要です。
印紙税や消費税の取扱い
建設業の請求書では、印紙税と消費税の適切な処理が特に重要になります。
これらの税金の取扱いを誤ると、後に大きな問題となる可能性があります。
印紙税の取扱い
建設工事請負契約に関連する請求書では、印紙税の対象となる場合があります。
請求書が単なる代金請求書であれば印紙税は不要ですが、工事請負契約書の性質を持つ場合は印紙税の対象となる可能性があります。
契約金額 | 印紙税額 | 適用条件 |
---|---|---|
1万円以上100万円以下 | 200円 | 工事請負契約書に該当する場合 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 | 工事請負契約書に該当する場合 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 | 工事請負契約書に該当する場合 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 | 工事請負契約書に該当する場合 |
消費税の記載方法
建設業の請求書における消費税の記載は、インボイス制度の導入により厳格化されています。
適格請求書発行事業者として登録している場合は、以下の項目を明記する必要があります。
適格請求書には登録番号、税率ごとの区分記載、税率ごとの消費税額等の記載が必要となります。
建設業では材料費と労務費が混在することが多いため、税率区分に注意が必要です。
軽減税率の対象となる取引がある場合は、8%と10%の税率を区分して記載し、それぞれの税額を明示しなければなりません。
元請と下請で異なる書き方のポイント
建設業界では元請・下請の関係性により、請求書の書き方に違いが生じます。それぞれの立場に応じた適切な記載方法を理解することが重要です。
元請業者の請求書作成ポイント
元請業者が発注者(建築主)に対して発行する請求書では、以下の点に注意が必要です。
工事全体の進捗状況と出来高を明確に示し、契約書に定められた支払条件に従って請求金額を算出する必要があります。
特に大規模工事では、出来高払いの場合が多く、検収を受けた部分について適切に請求することが求められます。
また、変更工事が発生した場合は、元の契約分と変更分を明確に区分して記載し、変更工事に関する承認書類の番号等も併記することが重要です。
下請業者の請求書作成ポイント
下請業者が元請業者に対して発行する請求書では、建設業法の規定に特に注意を払う必要があります。
下請業者は工事完成後、直ちに元請業者に対して請求書を提出し、元請業者は1ヶ月以内に支払いを行うことが法的に義務付けられています。
また、下請業者の請求書には以下の項目を含めることが推奨されます。
- 元請業者との契約書番号
- 工事の出来高確認日
- 元請業者の検収印または確認印
- 材料費と労務費の内訳(必要に応じて)
- 安全協力費等の諸経費の内訳
特に、一人親方や小規模事業者の場合は、インボイス制度への対応状況を明記することが、元請業者との取引継続において重要となります。
下請業者が複数の工事を同時に請け負っている場合は、工事ごとに請求書を分けるか、一つの請求書内で工事を明確に区分して記載することが必要です。
建設業特有の請求書テンプレートと見本

建設業界では、工事の性質や取引形態に応じた請求書の作成が求められます。
一般的な商取引とは異なる特殊性があるため、業界に適したテンプレートを使用することで、正確かつ効率的な請求書作成が可能になります。
見本書式のダウンロード案内
建設業向けの請求書テンプレートは、国土交通省や建設業界団体から提供されている標準的な書式を参考にすることが重要です。
これらの書式は、建設業法や下請法の要件を満たすよう設計されており、法的な問題を回避できます。
主要な建設業請求書テンプレートの種類は以下の通りです:
テンプレート種類 | 適用場面 | 特徴 |
---|---|---|
元請業者向け請求書 | 発注者への請求 | 工事契約書との整合性重視 |
下請業者向け請求書 | 元請業者への請求 | 下請法対応項目を含む |
出来高請求書 | 工事進捗に応じた請求 | 完成部分の詳細記載 |
完成請求書 | 工事完成時の請求 | 最終精算項目を含む |
建設業界では、工事の規模や契約形態に応じて異なる請求書様式を使い分けることが重要です。
特に、公共工事と民間工事では求められる記載項目が異なるため、それぞれに対応したテンプレートを準備する必要があります。
Excel形式のテンプレートを使用する場合は、計算式を組み込んでおくことで、消費税や源泉徴収税の自動計算が可能になります。
また、工事名や工期などの基本情報を入力すれば、関連する項目が自動的に反映される仕組みを構築すると効率的です。
請求書フォーマットに盛り込むべき事項
建設業の請求書には、一般的な請求書の必須項目に加えて、業界特有の記載事項を含める必要があります。
これらの項目を適切に記載することで、取引の透明性を確保し、後々のトラブルを防止できます。
建設業請求書の必須記載事項は以下の通りです:
記載項目 | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
工事件名 | 契約書記載の正式名称 | 略称使用は避ける |
工事場所 | 具体的な所在地 | 住所表記を正確に |
工事期間 | 着工日から完成日まで | 契約書との整合性確認 |
請負金額 | 税込・税抜を明確に | 変更契約がある場合は内訳記載 |
出来高または完成部分 | 請求対象となる工事範囲 | 写真や図面での証拠保全 |
建設業の請求書では、工事の進捗状況や完成度を明確に示すことが法的要件となっています。
特に下請業者が元請業者に請求する場合、建設業法第24条の3により、請求書には完成した建設工事の内容を具体的に記載する必要があります。
また、インボイス制度に対応するため、以下の項目も追加で記載する必要があります:
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 税率ごとに区分した消費税額
- 軽減税率の対象品目がある場合の税率表示
建設業特有の取引として、材料費と労務費を分けて記載することも重要です。
これにより、消費税の計算が正確になり、発注者側での経費処理も適切に行われます。
前払金や中間金の支払いを受けている場合は、その旨と金額を明記し、最終的な請求額から差し引いた金額を記載します。
源泉徴収の対象となる場合は、源泉徴収税額と差引支払額を明確に分けて表示することが求められます。
電子請求書を使用する場合は、電子署名やタイムスタンプの付与により、書面と同等の法的効力を持たせることができます。
ただし、受発注者双方の合意が前提となるため、事前に電子化について協議しておくことが重要です。
請求書作成の流れと実際の記入例

建設業における請求書作成は、工事の進捗状況や契約条件に応じて適切なタイミングで行う必要があります。
ここでは、実際の記入手順と具体的な記載内容について詳しく解説します。
工事請負契約の流れに沿った作成ポイント
建設業の請求書作成は、工事請負契約の段階に応じて異なる特徴があります。
以下の流れに沿って作成することが重要です。
契約締結から着手金請求まで
工事請負契約が締結された後、多くの建設業者は着手金として契約金額の一部を請求します。
着手金の請求書には契約日、工事名称、契約金額、着手金割合を明記することが必要です。
項目 | 記載内容 | 記入例 |
---|---|---|
請求書番号 | 通し番号で管理 | 2024-001 |
工事名称 | 契約書と同一の名称 | ○○住宅新築工事 |
請求内容 | 着手金である旨を明記 | 着手金(契約金額の30%) |
請求金額 | 消費税込みの金額 | 3,300,000円(税込) |
中間金請求の作成手順
工事の進捗に応じて中間金を請求する場合、工事の進捗率や完了した工程を具体的に記載することが重要です。
発注者にとって支払い根拠が明確になるため、トラブルの防止につながります。
◆ 中間金請求書の記載例:
- 基礎工事完了による中間金(契約金額の40%)
- 上棟完了による中間金(契約金額の30%)
- 内装工事完了による中間金(契約金額の20%)
完成引渡し時の最終請求
工事完成後の最終請求書では、契約金額から既受領金額を差し引いた残金を請求します。
完成検査日、引渡し日、保証期間の開始日を明記し、アフターサービスの連絡先も併記することが望ましいです。
入金サイトと支払い条件の明記方法
建設業では、支払い条件が複雑になりがちなため、請求書に明確な支払い条件を記載することが不可欠です。
支払い期日の設定方法
建設業法では、元請業者は下請業者に対して請求書を受領してから60日以内に支払いを行うことが義務付けられています。
請求書には以下の情報を明記します:
記載項目 | 記載例 | 注意点 |
---|---|---|
請求書発行日 | 令和6年4月15日 | 実際の発行日を記載 |
支払期日 | 令和6年5月31日 | 60日以内で設定 |
支払い方法 | 銀行振込 | 現金払いは避ける |
振込手数料 | お客様負担 | 負担者を明記 |
入金サイトの記載方法
建設業では、月末締めの翌月末払いや翌々月払いなど、入金サイトが長期化する傾向があります。
請求書には具体的な支払い条件を文章で明記することが重要です。
◆ 記載例:
- 「毎月末日締切、翌月末日現金支払い」
- 「請求書発行日より30日以内に指定口座へお振込み」
- 「工事完了検査合格後、45日以内に支払い」
支払い条件の詳細記載
支払い条件については、以下の要素を含めて記載することで、後日のトラブルを防止できます:
条件項目 | 記載内容 |
---|---|
支払い方法 | 銀行振込、現金、手形など |
振込先情報 | 銀行名、支店名、口座番号、口座名義 |
手数料負担 | 振込手数料の負担者 |
遅延損害金 | 支払い遅延時の損害金率 |
建設業では支払い条件の明確化が資金繰りに直結するため、曖昧な表現は避け、具体的な日付と条件を記載することが重要です。
また、発注者との契約内容と請求書の支払い条件に矛盾がないよう、事前に確認することも必要です。
建設業で請求書を書く際の注意点

建設業における請求書作成では、一般的な請求書とは異なる特殊な要素が多数存在します。
適切な請求書の作成は、円滑な資金繰りと法的トラブルの回避に直結するため、業界特有の注意点を十分に理解しておく必要があります。
間違いやすい項目のチェックリスト
建設業の請求書作成において、特に注意すべき項目を以下にまとめました。
これらの項目は、経験豊富な建設業者でも見落としがちな重要なポイントです。
チェック項目 | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
工事名称 | 具体的な工事名の記載 | 略称ではなく正式名称を使用 |
出来高金額 | 当月の工事進捗分の金額 | 全体金額との混同を避ける |
材料費の内訳 | 支給材料と購入材料の区別 | 税務上の取扱いが異なる |
工期 | 着工日と完成予定日 | 契約書との整合性を確認 |
支払条件 | 支払日と支払方法 | 手形割引の有無も明記 |
記載漏れが多い必須項目
建設業法で定められた一括下請負の禁止規定に関連する項目について、請求書に適切に反映されていないケースが散見されます。
具体的には、実際の施工業者名の記載や、現場責任者の明示などが該当します。
また、建設業許可番号の記載も重要な項目です。
特に500万円以上の工事を請け負う場合は、建設業許可が必要となるため、請求書にも許可番号を明記することが求められます。
金額計算における注意点
出来高請求における金額計算では、以下の点に特に注意が必要です。
- 前回までの累計請求額との重複計算の回避
- 変更工事分の適切な反映
- 材料費の仮払金との相殺処理
- 安全協力費等の諸経費の適切な配分
インボイス制度へ対応するための留意点
2023年10月から開始されたインボイス制度は、建設業界にも大きな影響を与えています。
適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者のみが、仕入税額控除の対象となる請求書を発行できるため、制度への対応は必須となっています。
適格請求書の記載要件
インボイス制度に対応した請求書には、以下の項目が必要です。
記載項目 | 具体的な内容 | 建設業特有の注意点 |
---|---|---|
適格請求書発行事業者の登録番号 | T+13桁の番号 | 下請業者の登録状況も確認 |
税率ごとの区分記載 | 10%、軽減税率8%の明示 | 建設業では通常10%のみ |
税率ごとの消費税額 | 端数処理は請求書単位 | 明細単位での端数処理は不可 |
経過措置と段階的な取扱い
インボイス制度開始から一定期間は経過措置が設けられており、免税事業者からの仕入れについても段階的に仕入税額控除が認められています。
建設業においては、個人事業主として活動する一人親方や小規模な専門工事業者が免税事業者である場合が多いため、この経過措置の理解が重要です。
経過措置の適用期間と控除割合は以下の通りです。
- 2023年10月1日~2026年9月30日:80%控除
- 2026年10月1日~2029年9月30日:50%控除
- 2029年10月1日以降:控除不可
電子保存・電子請求書利用時の注意
建設業界においても、請求書の電子化が急速に進んでいます。
電子帳簿保存法の改正により、2024年1月からは電子取引における紙保存の猶予措置が廃止されているため、適切な対応が必要です。
電子帳簿保存法への対応
電子請求書を利用する場合は、以下の要件を満たす必要があります。
要件 | 具体的な対応 | 建設業での実務ポイント |
---|---|---|
真実性の確保 | タイムスタンプの付与 | 現場写真との連動管理 |
可視性の確保 | 検索機能の整備 | 工事名・期間での検索対応 |
関係書類の備付け | システム仕様書の保管 | 現場管理システムとの連携 |
システム選択における注意点
建設業特有の業務フローに対応したシステムを選択することが重要です。
特に以下の機能を備えたシステムを選ぶことをおすすめします。
- 工事進捗管理との連動機能
- 材料管理システムとの連携
- 現場写真の自動取り込み機能
- 複数現場の一括管理機能
セキュリティ対策
建設業の請求書には工事の詳細情報が含まれるため、情報漏洩防止対策が特に重要です。
電子化に際しては、以下のセキュリティ対策を実施する必要があります。
アクセス権限の適切な設定、定期的なバックアップの実施、ウイルス対策ソフトの導入、従業員への情報セキュリティ教育の実施などが挙げられます。
また、クラウドサービスを利用する場合は、データセンターの所在地や暗号化の方式についても確認しておくことが重要です。
移行期における並行運用
紙ベースから電子化への移行期間中は、取引先との調整が必要になります。
特に建設業では、元請企業と下請企業の間で請求書の受発注システムが異なる場合があるため、段階的な移行計画を策定することが重要です。
移行期間中は、紙と電子の両方に対応できる体制を整備し、取引先ごとに適切な方法で請求書を発行できるよう準備しておく必要があります。
税理士が解説する建設業請求書の疑問Q&A

よくある質問と回答
建設業で複数の工事を同時に進行している場合の請求書はどう書けばよいですか?
複数の工事を同時に進行している場合は、工事ごとに請求書を分けて作成することが基本です。
各工事の進捗状況や支払い条件が異なるため、混同を避けるためにも個別に管理することが重要です。
ただし、同一の発注者で支払い条件が同じ場合は、工事名を明確に記載した上で1枚の請求書にまとめることも可能です。
出来高払いの場合の請求書作成方法を教えてください
出来高払いの場合は、工事の進捗率に応じた金額を明確に記載する必要があります。
請求書には「○○工事 第○回出来高払い」と明記し、工事全体の契約金額、今回までの累計出来高金額、既請求金額、今回請求金額を区分して記載します。
また、工事監理者による出来高確認書類を添付することが一般的です。
材料費と労務費を分けて記載する必要はありますか?
建設業では、材料費と労務費を区分して記載することが推奨されます。
これは税務調査時の透明性確保や、発注者側の経理処理上の都合によるものです。
特に公共工事では、材料費、労務費、経費の内訳を明確にすることが求められる場合があります。
項目 | 記載方法 | 注意点 |
---|---|---|
材料費 | 使用した材料の明細と金額 | 材料の種類・数量・単価を明記 |
労務費 | 作業員の人数・日数・単価 | 職種別の労務費を区分 |
経費 | 現場管理費・一般管理費等 | 比率や算定基準を明確にする |
前払い金がある場合の請求書はどう作成しますか?
前払い金がある場合は、契約金額から前払い金を差し引いた残額を請求対象とします。
請求書には「契約金額」「前払い金」「差引請求金額」を明記し、前払い金の処理が適切に行われていることを明確にします。
最終請求時には、前払い金の精算も含めて記載することが重要です。
変更工事が発生した場合の請求書作成方法は?
変更工事が発生した場合は、当初契約分と変更工事分を区分して記載します。
変更工事については、変更契約書や変更指示書の番号を明記し、変更理由と変更内容を簡潔に記載します。
また、変更工事の承認を得てから請求することが原則です。
トラブル事例と回避策
請求書の記載不備による支払い遅延トラブル
建設業でよく発生するトラブルとして、請求書の記載不備による支払い遅延があります。
特に工事名の間違い、金額の計算ミス、必要書類の不足などが原因となります。
回避策としては、請求書作成時のチェックリストを作成し、発送前に複数人による確認を行うことが有効です。
また、発注者側の経理部門と事前に請求書の様式や必要書類について確認しておくことも重要です。
インボイス制度対応不備によるトラブル
インボイス制度導入後、適格請求書発行事業者の登録番号記載漏れにより、発注者側が仕入税額控除を受けられないトラブルが増加しています。
回避策として、請求書テンプレートに登録番号欄を設け、必ず記載することを徹底します。
また、下請業者にも適格請求書発行事業者の登録状況を確認し、未登録の場合は登録を促すか、税務上の取扱いについて事前に協議することが必要です。
電子請求書の法的要件不備
電子請求書を利用する際に、電子帳簿保存法の要件を満たしていないことによるトラブルが発生しています。
真実性の確保や可視性の確保が不十分な場合、税務調査時に問題となる可能性があります。
回避策として、電子請求書システムが電子帳簿保存法の要件を満たしているかを事前に確認し、必要に応じてタイムスタンプや電子署名の付与を行います。
また、発注者側のシステム対応状況も確認し、互換性を確保することが重要です。
支払い条件の解釈相違によるトラブル
建設業では、支払い条件の記載が曖昧であることにより、支払い時期や方法について発注者と受注者の間で解釈が異なるトラブルが発生します。
回避策として、請求書には支払い期日を具体的な日付で記載し、支払い方法(振込先口座)も明確にします。
また、契約書段階で支払い条件を詳細に定めておき、請求書にはその条件を参照できるよう契約書番号を記載することが有効です。
トラブル種類 | 主な原因 | 回避策 |
---|---|---|
記載不備 | 工事名間違い、金額計算ミス | チェックリスト作成、複数人確認 |
インボイス対応不備 | 登録番号記載漏れ | テンプレート改訂、事前確認 |
電子化対応不備 | 法的要件未達 | システム要件確認、互換性確保 |
支払い条件不明 | 条件記載の曖昧性 | 具体的日付記載、契約書参照 |
税務調査時の請求書関連指摘事項
税務調査では、請求書と実際の工事内容の整合性が重点的にチェックされます。
特に、架空請求や水増し請求の疑いがある場合、詳細な説明を求められることがあります。
回避策として、請求書の根拠となる工事日報、材料受払簿、作業写真等の証拠書類を適切に保管し、請求書と紐付けて管理することが重要です。
また、外注費については、外注先からの請求書と自社の請求書の整合性を確認し、適切な証拠書類を保持することが必要です。
まとめ
建設業の請求書作成では、工事請負契約の特性を踏まえた正確な記載が不可欠です。
元請・下請の関係性や印紙税の取扱い、インボイス制度への対応など、建設業特有の要素を適切に盛り込むことで、トラブルを未然に防ぎスムーズな資金回収が実現できます。
テンプレートの活用と定期的な見直しにより、効率的かつ正確な請求書業務を構築しましょう。