「支払通知書は請求書の代わりになるのか?」という疑問に対して、この記事では法的・会計的観点やインボイス制度、電子帳簿保存法への対応まで徹底解説します。
結論として、適切な条件下では支払通知書は請求書の代替として認められるケースもありますが、税務処理や取引先との合意形成など注意点が多く、正しい理解と運用が不可欠です。
支払通知書と請求書の基本的な違いとは
支払通知書とは何か
支払通知書とは、買い手側(支払者)が発行する支払い意思・支払予定に基づいた通知書です。
主に、企業が仕入先や取引先に対し、支払日や支払金額、対象となる取引内容などをあらかじめ通知する目的で利用されます。
請求書とは異なり、「支払う側」が発行する文書であるため、取引の立場が逆になります。
たとえば、ある大手企業が毎月取引先に対して一定の業務委託料を支払う場合、取引先から請求書を受け取らずに、企業自身が支払通知書を発行することで精算する運用をしています。
これは、事務処理の簡素化や会計システムの統一などを目的としたものです。
請求書とは何か
請求書とは、売り手側(債権者)が買い手に対して代金の支払いを要求するために発行する文書です。
商品やサービスの提供を証明するとともに、その対価として支払うべき金額、支払い期日、振込先口座などの情報が記載されており、商取引において非常に重要な役割を果たします。
日本国内の商慣習においては、取引後に売り手が買い手に対し請求書を送付し、それに基づいて買い手が支払いを行う形が一般的です。
また、請求書は税務上の証憑として仕入税額控除の根拠書類にもなりうるため、保存義務なども生じる文書です。
法律的な違いと役割の違い
支払通知書と請求書には、発行主体や内容だけでなく、法律上および税務上の役割や取り扱いにも明確な違いがあります。
項目 | 支払通知書 | 請求書 |
---|---|---|
発行者 | 買い手(支払者) | 売り手(債権者) |
目的 | 支払内容や期日の通知 | 代金支払いの請求・販売内容の明示 |
法的位置づけ | 法的義務ではなく内部管理上の文書 | 商法・消費税法などで保管義務あり |
税務処理への影響 | 仕入税額控除の適格書類とは認められない場合がある | 適格請求書(インボイス)要件を満たす場合、税務処理可能 |
主な使用場面 | 継続取引・契約ベース・簡素化された会計処理 | 一括取引・小規模取引・個別都度精算が必要な場合 |
請求書は商取引において債権発生日の重大な証拠となることがある一方、支払通知書にはそのような法的効力は基本的に伴いません。
また、請求書には消費税法で定められた記載項目があり、インボイス制度との関係性においても請求書の方が重視されます。
したがって、支払通知書と請求書はしばしば混同されがちですが、発行者・目的・法的な位置づけにおいて明確な違いがあり、使用する文脈によって選択と注意が必要です。
支払通知書は請求書の代わりとして使用できるのか

支払通知書を請求書の代わりに使うケース
企業間取引においては、支払通知書が請求書の代わりとして利用される場面があります。
特に、支払側(買い手)の方が取引管理や経理処理を主導する大企業や公共機関などのケースでは、請求書を受領せず、支払通知書のみで支払いを行う運用が一般的となっている場合もあります。
このような方法は、主に以下のような状況で採用されることがあります。
活用ケース | 具体例 |
---|---|
定型・継続的な取引 | 毎月定額の支払いが発生するシステム利用料、レンタル料、業務委託費などで、事前に金額や条件が合意されている場合 |
社内統制や内部統制の強化策 | 企業が購買管理システムにより発注・支払・仕訳を一元管理しており、その中で発行される支払通知書で統一している場合 |
取引先が請求書を発行できないもしくは不要とされる場合 | 請求に関する業務を買い手側に委任し、支払い内容の確認を買い手が単独で行うビジネスフロー |
税務署や会計上の実務での扱い
税務や会計の実務において、支払通知書は「請求書」としての代替性を必ずしも完全に持つわけではありません。
企業が仕入税額控除を行うためには、適格請求書の保存が義務付けられているため(特に2023年10月1日施行のインボイス制度以降)、支払通知書が正式な証憑となるかは慎重に判断する必要があります。
ただし、会計上の処理としては、発注書・納品書・支払通知書などを組み合わせ、取引の実態が明確であると認められる場合、正当な証憑として扱われているケースもあります。
また、監査法人や税務署との事前調整がされている場合や、社内の文書管理ポリシーが適切に運用されているのであれば、支払通知書による請求処理は一定程度許容される傾向もあります。
支払通知書のみで消費税の仕入税額控除は可能か
インボイス制度導入後の現在では、2023年10月1日以降、消費税の仕入税額控除を行うためには「適格請求書(インボイス)」の保存が必要です。
これは、相手方(売り手)が「適格請求書発行事業者」であることが条件となり、その上で正しいインボイスを発行・保存する必要があります。
よって、支払通知書単独では、原則として仕入税額控除の証拠書類とはなりません。
ただし例外的に、「適格請求書の交付方法」として、買い手が作成した書類(自己請求方式によるインボイス)が税務署に届け出済みである場合などには、支払通知書をもってインボイス要件を満たすケースも存在します。
なお、以下のような要件をすべて満たす場合、支払通知書が適格請求書とみなされることもあります。
- 買い手側が適格請求書発行事業者に代わって交付することについて、事前に売り手との間に合意がある
- 買い手が税務署に自己請求方式の届出をしている
- 支払い通知書がインボイス制度の要件(登録番号、取引年月日、内容、税率ごとの金額、税額、発行者など)を全て満たしている
しかし、通常の支払通知書はこの要件を満たしていないケースが多いため、仕入税額控除を行うには、基本的に売り手からの適格請求書を保存する必要があると理解しておくべきです。
支払通知書を請求書の代わりに使う際の注意点

インボイス制度との関係
令和5年10月から導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、仕入税額控除を適用するためには適格請求書(インボイス)の保存が必要になりました。
インボイスとして認められる帳票は、国税庁が定めた記載要件を満たす必要があります。
通常の支払通知書は、発行者・登録番号・税率ごとの消費税額・適用税率などが明記されていないことが多く、そのままではインボイスとしての要件を満たさない場合があります。
そのため、支払通知書を請求書の代わりに使用する場合には、以下の内容を必ず確認し、必要に応じて通知書のフォーマットを見直す必要があります。
必要記載事項 | 支払通知書に必要な対応 |
---|---|
適格請求書発行事業者の登録番号 | 登録番号の記載を追加 |
取引年月日 | 明確に記載する |
取引内容(課税、税率) | 商品・サービスごとの税率区分を記載 |
税率ごとに区分して合計した対価の額及び適用税率 | 軽減税率と標準税率の合計を別々に表示 |
消費税額 | 各税率ごとの金額と対応する税額を明示 |
インボイス制度の適用事業者が仕入税額控除の適用を確保するには、インボイス該当要件を満たす支払通知書を取り交わすこと、もしくは請求書を別途受領する必要があります。
取引先との認識合わせの重要性
支払通知書を請求書の代用とする運用は、支払側企業の意向で行われることがありますが、取引先との認識の相違がトラブルを招く原因になる可能性があります。
特に中小企業やフリーランスなど、請求書発行を業務プロセスとして定着させている事業者にとっては、支払通知書運用の理解が不十分なこともあります。
以下のポイントについて、事前に合意を取り交わすことが望まれます。
- 請求書の提出を省略することに対する文書による同意
- 支払通知書を取引証憑として双方が正式に扱う旨の契約・合意
- 支払に関する異議申し立ての期限やプロセスの明確化
こうした合意が明文化されていない場合、支払証憑として扱えない可能性や、相手方からの税務書類の再提出依頼などの手間が発生するため注意が必要です。
電子帳簿保存法対応のポイント
令和4年の法改正により、電子データで授受した支払通知書や請求書については電子帳簿保存法への対応が必須となりました。
PDFなどの電子ファイルで送付された通知書を印刷して保存するだけでは要件を満たしません。
支払通知書を電子データで受領・発行する場合には、以下の要件を満たす方法で保存する必要があります。
電子保存方式 | 具体的要件 |
---|---|
タイムスタンプ付与方式 | 発行後または受領後一定期間内(最長2ヶ月以内)にタイムスタンプを付与 |
訂正削除履歴の残るシステム | 文書の改ざんができないシステムへの保存 |
検索機能の確保 | 取引年月日、金額、取引先名での検索が可能 |
クラウド会計システムや文書管理ツールを導入するなど、社内体制とツールの整備が求められます。
また、保存期間は消費税法や法人税法に基づき7年間(一定の条件で10年間)ですので、長期保管の環境も重要です。
請求書の発行が省略される主な取引パターン

継続的な取引(例:業務委託や賃貸契約など)
取引が毎月一定の金額や条件でおこなわれる継続的な契約では、都度の請求書発行を省略するケースがあります。
例としては、業務委託契約や顧問契約、賃貸借契約などが挙げられます。
こうした取引では、あらかじめ締結された契約書に基づき各月または一定期間ごとの支払いが決定しており、金額・支払日・支払い方法などが明文化されているため、請求書発行の役割が契約書に含まれているとみなされ省略されることがあります。
支払者側が支払通知書を自ら発行し、それを証憑として会計処理をおこなうケースが多く、特に大手企業や公共団体ではこの運用が一般化しています。
代表的な契約書の記載例
契約項目 | 内容 |
---|---|
契約形態 | 業務委託・顧問契約・賃貸契約 等 |
支払条件 | 月額定額の支払い(例:毎月末日締・翌月15日支払い) |
証憑 | 契約書+支払通知書(又は振込明細) |
購買依頼書や発注書ベースの決済
商品の仕入やサービスの発注において、購買依頼書・注文書・発注書を基に支払い処理が行われる業務フローの企業では、請求書を省略する運用が見られます。
このような場合、受領後の納品書や検収書と共に発注内容と一致しているか確認し、締め日に基づいて支払通知書を発行する形式が一般的です。
特に製造業・物流業・建設業のような発注件数が多い業態や、ERPシステム(例:SAP, Oracle EBSなど)での業務自動化が進んでいる企業で多く採用されています。
この運用のメリットとデメリット
項目 | メリット・デメリット |
---|---|
メリット | 事務負担の軽減、ペーパーレス化、支払の自動管理が容易 |
デメリット | 請求漏れ・誤支払のリスクがあり、関係者間の認識齟齬が生じやすい |
大手企業での会計処理の簡素化目的
特に従業員数が多い上場企業やグループ会社を多数持つ持株会社形態の企業では、会計システムによる集中管理や業務効率化を目的に、請求書発行を省略して社内処理するケースが存在します。
こうした企業では、内部取引やグループ間取引を対象に、取引先から請求書を受け取る代わりに、買掛金処理を進めた上で支払通知書に基づき支払処理を実行します。
このような慣行は、商慣行として支払通知書中心の処理が業界全体で一般化している場合にも見られます。
内部統制との関連性
社内での会計・監査制度が整備されている企業で、支払通知書や支払依頼書により証憑の信頼性を確保して会計処理する体制が整っていれば、請求書なしでも内部統制上の問題とならないケースもあります。
ただし、仕入税額控除の対象とするには適格請求書への対応が必須となるため、インボイス制度導入以降はさらなる整備が求められます。
支払通知書を発行・管理する際の実務的な流れ

必要な記載項目
支払通知書は、企業が取引先に対して支払内容を通知するための重要な帳票であり、請求書とは異なり企業側(買い手)が発行する文書です。
実務において支払通知書を正確に発行するためには、以下のような項目を必ず記載する必要があります。
項目名 | 内容 |
---|---|
発行日 | 支払通知書を作成・発行した日付。 |
支払先(取引先)名 | 支払い対象となる企業名または個人事業主名。 |
支払対象期間 | 支払いの対象となるサービスや商品の提供期間など。 |
支払内容の明細 | 商品名、数量、単価、金額、消費税等の詳細。 |
合計金額 | 支払金額(税込・税抜)を明記。 |
支払日・予定日 | 実際の支払実行予定日または締日の記載。 |
振込先口座情報 | 銀行名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義人。 |
備考欄 | 源泉徴収の有無、相殺対象、キャンセル明細の説明などの特記事項。 |
発行元情報 | 企業名、住所、電話番号、担当部署名など。 |
これらの項目が正確に記載されていないと、支払いに関する誤認やトラブルに発展する可能性があるため、帳票精度の確保が非常に重要です。
証憑としての保管方法
支払通知書は、取引の証憑資料として会計監査や税務調査時に求められる可能性がある重要書類です。
したがって、支払通知書の適切な保管が必要です。
保管方法には紙媒体と電子媒体の2つがありますが、特に2022年から進行している電子帳簿保存法の改正により、電子保管のニーズが高まっています。
紙による保管
紙で支払通知書を発行・保存する場合、原則として税務署による保存義務期間である7年間の保管が求められます。
製本管理・ファイリング・日付順保管など、管理体制が重要です。
電子データでの保管
スキャン保存やPDFファイルでの保存も可能ですが、電子保存要件に適合しなければ法定帳票として認められません。
- 検索機能付きのファイル管理
- 真実性の確保(タイムスタンプなど)
- 見読性の確保(モニター表示・印刷可能であること)
また、クラウド系経理ソフト(例:freee、マネーフォワード、弥生会計など)では支払通知書の保管や共有、検索機能が整備されているため、実務の効率化が期待できます。
支払通知書フォーマットの例とひな形
実務では、エクセルや会計ソフトで支払通知書フォーマットを統一して運用するケースが一般的です。
ここでは、支払通知書のひな形の一例を紹介します。
項目 | サンプル内容 |
---|---|
支払通知書番号 | ST-2024-05-001 |
発行日 | 2024年5月31日 |
支払先 | 株式会社ABC商事 |
支払内容 | 〇〇業務委託料(5月分) |
金額(税込) | 220,000円 |
支払予定日 | 2024年6月10日 |
振込口座 | 三井住友銀行 渋谷支店 普通 1234567(カ)ABCショウジ |
備考 | 原稿料および源泉徴収対象(10.21%) |
発行者 | 株式会社XYZ 経理部 担当:山田太郎 |
ひな形を作成することでルールの統一とヒューマンエラーの回避につながります。
また、経理・財務部門との連携により、請求書が未着でも期日通りの支払処理が実行可能になります。
以上のように、支払通知書は単なる社内文書ではなく、法的・会計的にも意味を持つ証憑であり、正しく発行・保存・管理することが信頼性のある企業運営には不可欠です。
適切なルール設定と社内マニュアルの整備が業務効率と内部統制の向上を支えます。
支払通知書と請求書の併用の可能性と判断基準


業種・業態による違い
支払通知書と請求書を併用するかどうかは、業種や業態によって実務の慣行が大きく異なるため、一律的な判断は困難です。
たとえば、製造業や建設業といった業務量が多く、検収の管理が厳密な業界では、支払通知書の運用が一般化していることがあります。
この場合、支払通知書が実質的に請求書の役割を担うこともあるため、双方の書類を併用しないケースも見られます。
一方、IT業界や士業などのサービス業では、請求書の発行が慣習的・法的に重視される傾向が強く、支払通知書は参考資料の位置づけにとどまる場合もあります。
このように、業界特性に応じて適切な書類管理の方法を選択することが重要です。
社内ルールと契約書との整合性
支払通知書と請求書を併用するかどうかは、自社の経理規定や帳票運用ルールとの整合性も重要な判断ポイントになります。
たとえば、請求書の受領を支払い条件の一部として明記している社内ルールがある場合、請求書の省略や支払通知書のみでの処理は規定違反となる可能性があります。
このようなケースでは、支払通知書は補助資料として扱い、請求書の提出を引き続き求めることが必要です。
また、業務委託契約書、業販契約書などの契約条項に「請求書による請求をもって支払う」旨が定められている場合には、契約内容に従って請求書の提出を求めるべきであり、支払通知書での代替は原則認められません。
契約内容との整合性は、トラブル防止の観点からも厳格に対応すべき事項です。
相手先との合意内容に基づく判断
支払通知書を請求書の代わりに用いる場合、取引先との事前合意が極めて重要です。
税務上、仕入税額控除を行うには、インボイス制度の下では適格請求書(いわゆるインボイス)の保存が前提となっているため、適格請求書発行事業者との取引では通常は請求書の発行が欠かせないものとなります。
ただし、取引慣行や支払方法の簡素化を目的として、事前に「支払通知書をもって請求書とみなす」旨の合意がある場合に限り、一定の条件下で双方で請求書の発行・受領の手続きを省略し、支払いが実行されるという運用が容認されるケースもあります。
国税庁もこの点について明確化しており、消費税法上の仕入税額控除を行うには、一定の要件を満たした適格請求書類が必要です。
以下に、取引先との合意内容によって支払通知書と請求書の運用がどのように変わるのかを示す表を掲載します。
合意内容 | 請求書の発行 | 支払通知書の役割 | 仕入税額控除の可否 |
---|---|---|---|
書面契約に「請求書必須」と明記 | 必須 | 参考資料(補助的) | 可能(請求書保存が前提) |
事前に通知書による請求代替を合意 | 不要(通知書で代替) | 正式な支払い根拠 | 要件を満たす適格請求書が条件 |
支払い条件があいまい(未合意) | 原則必要 | 会計処理用のみ | 控除不可のリスクあり |
支払通知書と請求書の併用・代替の最終的な判断は、取引の性質・法令遵守・取引先との合意の3点を柱に、個別具体的に行うことが肝要です。
加えて、監査や税務調査の際にも説明責任が問われる場面があるため、証拠としての文書の整備・保存も怠らないようにしましょう。
まとめ
支払通知書は、特定の条件下では請求書の代わりとして使用可能です。
特に、大手企業や継続的な取引では、支払通知書をもとに決済されるケースもあります。
ただし、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応、取引先との認識共有が不可欠です。
消費税の仕入税額控除を受けるには、「適格請求書」の保存が必要であり、インボイス発行事業者からの証憑が条件となります。
法令や契約内容に基づき、適切に使い分けることが重要です。